「水気を切る」「浅めのフライパンで」「しょうゆを回しいれる」「ほどよく煮込む」……など、レシピには当たり前のように書かれている言葉の数々。でも、実際にどうすればいいの?
連載シリーズ「レシピのスキマ」では、そんなレシピからこぼれ落ちてしまう「大切なコツ」を調理科学で解き明かしていきます。
第6回目は「サラダ」です。シンプルな料理だからこそ、調理の仕方ひとつでおいしさが決まります。今回はレタスを例に、パリッとみずみずしく作るコツを、研究者の川﨑さんに教えていただきます!
(ジューシーなハンバーグ、シャキッと仕上がる野菜炒めのコツなどを解説してきたこれまでの「レシピのスキマ」はこちらから読めます!)

インタビューした人
味の素社 研究者
川﨑 寛也さん
博士(農学)、味の素(株)Executive Specialist、NPO法人日本料理アカデミー理事 調理科学者、感覚科学者。生家は明治20年創業の西洋料亭「西洋亭」(北海道・根室で創業。現在は廃業)。京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了。専門は、おいしさの科学、プロの調理技術の解明など。主な著書に『味・香り「こつ」の科学』『おいしさをデザインする』『だしの研究』(以上、柴田書店)、『日本料理大全 だしとうま味、調味料』(NPO法人日本料理アカデミー)ほか。研究分野は、おいしさの科学、プロの調理技術の解明、食の体験と心理的価値の関連解明など。
- 塩をかけたらそれはサラダ?!
- 水切りと「つなぎ役」でまとまり感アップ!
- ポイント1:“手ちぎり”と“水さらし”で、鮮やかさとシャキッと感を作る!
- ポイント2:しっかり水気を取り、冷やす
- ポイント3:ドレッシングは、塩と酢を先に溶かすのが鉄則!
- ポイント4:白っぽく「もったり」を目指して、油は少しずつ加える
- ポイント5:和えるのは食べる直前に!
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塩をかけたらそれはサラダ?!
家庭でよく作るサラダですが、意外とその定義はわからないもの。川﨑さん、この機会に改めて「サラダはどんな料理なのか」教えてください!
川﨑さん「野菜を中心に果物や卵、穀物などをドレッシングで味付けし、冷たくして食べる料理です。
『salad』はラテン語の『salata(=塩味をつけたもの)』に由来しています。語源から考えると、究極的には塩味がついていたらサラダと言えるのかもしれないですね」
では、今回の「レタスのサラダ」はどのような仕上がりが理想なのでしょうか?
川﨑さん「人それぞれに好みがあるので、これという正解はありませんが、葉が適度に冷えていて、パリッとした食感であること。そして、ドレッシングが全体にまんべんなく行き渡っていて、どこを食べても同じ味になっていることです」
ドレッシングは「かける」ものというイメージがあるのですが……。それではいけないのでしょうか。
川﨑さん「そんなことはありません。ですが、サラダは本来『和える』料理なんです。かけるだけだと、どうしても味の濃い部分と薄い部分ができてしまいます。レタスとドレッシングがしっかり混ざっていたほうが、どこを食べても味に統一感があっておいしく感じやすいです」

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水切りと「つなぎ役」でまとまり感アップ!
では、ドレッシングとレタスを上手に和えるにはどうしたらよいのでしょうか?ポイントは2つです!
1つ目は、「レタスの表面の水分を取り除くこと」。水気が残っているとドレッシングの味が薄まってしまいます。シャキシャキのレタスとドレッシングの味わいを楽しむために、水気はできるだけ取りましょう。
2つ目は、「乳化材を使ってドレッシングを作ること」です。水と油など、異なるもの同士が混ざり合うことを「乳化」と言います。ドレッシングの材料である酢と油も乳化はしますが、すぐに分離してしまう性質があるため、和えたときに味にムラが出てしまいます。そこで、マスタードやにんにくなどの乳化材、つまり「つなぎ役」を加えて混ぜます。すると、酢と油が安定して混ざり合い、とろみも出るので、レタスに絡みやすくなります。

和えるためのポイント以外にも、おいしいレタスのサラダにはコツがまだまだあります!レシピに沿って実演しながら、詳しく解説します!
今回使う材料はこちらです!
材料(2〜3人分)
- レタス
- 1/2個
- 酢
- 大さじ1
- 植物油
- 大さじ3
- マスタード
- 小さじ1
- おろしにんにく(チューブ)
- 1cmほど
- 塩
- 2g
- 黒コショウ
- 少々
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ポイント1:“手ちぎり”と“水さらし”で、
鮮やかさとシャキッと感を作る!

レタスは手で一口大(3cm四方が目安)にちぎったあと、水にさらします。

川﨑さん「包丁でも構いませんが、手でちぎるのがオススメです。レタスの自然な繊維の流れに沿って葉が分かれるため、細胞壁を必要以上に傷つけることがありません。包丁で切ると、繊維をきれいに断ち切りすぎてしまい、細胞内の酸化酵素がより多く外に出ることに。結果、酸化反応が進み、茶色く変色しやすいのです」

川﨑さん「ちぎったレタスは氷水に入れると、細胞に水が入り込み、みずみずしくシャキっとした食感になります。ただ、つけすぎは注意です。栄養素が水の中に流れてしまうので、さらす時間は長くても10分程度にしましょう。水中では酸素を遮断できるので、変色を防ぐ効果もありますよ」
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ポイント2:しっかり水気を取り、冷やす
川﨑さん「水にさらしたレタスはざるに上げ、よく水気を切りましょう。ドレッシングをしっかり絡めるためにも、水分はしっかり取るのがポイントです。冷たいとよりおいしく感じられるので、水気を切った後に冷蔵庫で冷やすといいですよ」

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ポイント3:ドレッシングは、塩と酢を先に溶かすのが鉄則!

レタスを冷やしている間に、ドレッシングを準備しましょう。今回は塩・酢・油を基本にしたフランスの定番ドレッシングを作ります。いわゆる「フレンチドレッシング」ですが、フランスでは「ソース・ヴィネグレット」と呼ぶのだそうです。
川﨑さん「酢と油は1:3の割合で用意します。これはフランスでおいしいとされている黄金比率です。塩は、レタスの量に対して1%程度にしましょう。以前のハンバーグ回で『塩とタンパク質の反応』で説明したのと似たメカニズムで、植物の細胞も1%程度の塩分濃度にすると、しょっぱくならない程度、かつ、塩を吸収しやすくなります」
分量はあくまでも目安で、「お好みに合わせて調整してください」とのことでした。

そして、ドレッシング作りで大事なのが「混ぜる順番」です。
川﨑さん「まず、レタスが入る大きさのボウルに塩と酢を混ぜます。塩は酢のような水性のものには溶けますが、油には溶けません。油と先に混ぜた場合、塩が溶けきらずにザラザラとした食感が残ります。油を加える前に、塩・こしょう、酢をよく混ぜましょう」
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ポイント4:白っぽく「もったり」を目指して、
油は少しずつ加える
塩が溶けたら、マスタードとにんにくを加えて混ぜます。
川﨑さん「マスタードは乳化を助ける働きがあるので、油より前に加えます。その後、油を少しずつ何回かに分けて加えながら混ぜると、乳化しやすいですよ」


川﨑さん「油は一気に入れると、乳化が追いつかず分離してしまいます。混ぜる際は、手早く行うのも大切。油の粒子をできるだけ細かくし、酢の中に均一に分散させましょう。白く、もったりとしてきたら乳化がうまくいっている証拠です」

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ポイント5:和えるのは食べる直前に!

いよいよ、サラダ作りも終盤。ドレッシングを作ったボウルに冷蔵庫から取り出したレタスを入れ、ドレッシングを絡めます。
川﨑さん「下から大きくすくい上げ、優しくかえしながら混ぜることで、ドレッシングが均一に行き渡ります。ここで手を使うことで、全体にまんべんなくドレッシングが行き渡り、混ざり具合を確認できますよ。さらに大事なのは、食べる“直前”に和えること。早すぎると塩の浸透圧の影響でレタスから水分が出て、食感はシナシナ、ドレッシングは薄まり、ぼやけた味のサラダになってしまいます」

最後にお好みでコショウを振りかけて、完成です!
見た目も色鮮やかで、レタスにハリがあります。食べてみると、お酢の爽やかさが鼻に抜けますがまろやかな味わい。シャキッとした食感と冷たさも心地よく感じられます。食べ進めても味にばらつきがなく、最後までおいしくいただけました!
今まで何気なく作っていたサラダでしたが、確かにこれは「立派な料理」。作り方にも細やかなコツがありました。それだけに「いつもの料理」がグッとおいしくなったときの嬉しさも格別。今回お伝えしたコツはレタス以外のサラダにも使えます。油や食材を変えれば無限にレパートリーが広がりますよ。ぜひ、みなさんもご家庭で試してみてくださいね!